ロレックスのムーブメントが更新される時、それは単なるパーツ変更にとどまらず、時計そのものの「見え方」と「振る舞い」が書き換わる瞬間でもある。Cal.4130 から Cal.4131 への進化はまさにその代表例であり、特にデイトナという象徴的モデルにおいては、その影響は純正だけにとどまらず、レプリカ業界全体の構造すら動かすことになった。
その中心にいるのが 126500LN パンダダイヤル だ。白文字盤 × 黒セラクロム × 黒インダイヤルという純白と漆黒のコントラストは、わずかな誤差や文字盤の質感の乱れをも隠すことができない。だからこそ、クリーンファクトリーが最も力を注いだのもこの構成であり、現在では “クリーンファクトリー ロレックス デイトナ126500LN 40mmパンダダイアル セラミックベゼル 4131”がこの世代の完成形 として扱われるほどだ。
本記事では、時計を単なる“外観”ではなく、構造・動作・光学特性のすべてが絡み合うシステム として捉え、4131時代のパンダがなぜ重要なのかを深く掘り下げる。
パンダダイヤル ― 色よりも「構造」が難しい理由
パンダダイヤルは、色よりも 精度と対称性のテスト だ。
- 白はゴミやホコリを隠せない
- 黒は印字の乱れをすぐ露わにする
- サブダイヤルのアズラージュ(円状仕上げ)は均一でなければ一瞬でバレる
- タイポグラフィの線幅は均質でなければならない
ロレックスが126500LN を発表した際、変更点は一見すると小さく見えたが、その本質は 内部比率の再設計 だった。
126500LN になって変わったポイント
- サブダイヤルのリングがより滑らかに、均一な厚みに
- 分目盛りの密度が上がり、視認性アップ
- 「DAYTONA」文字の赤がより統一された線幅に
- 針の光処理が改善され反射が抑制
- 文字盤の白は“純白すぎず”“黄ばみすぎない”ニュートラルな色調に
クリーンファクトリーはこれに対応するため、
目盛りの金型を新設 → サブダイヤルの粒度を再調整 → 白のラッカー配合まで改修
という、見えない改良を積み重ねている。
結果として、強い照明でも色が“グレーがかった白”に崩れず、暖色照明でもクリーム色にならない。これはレプリカでは非常に難しい再現だ。
Cerachrom ベゼル ― デイトナで最も誤魔化しが効かないパーツ
デイトナの黒セラクロムは、単に黒く見えれば良いわけではない。
求められるのはこうだ:
- 「チャコール」でも「黒プラスチック」でもない “深い黒”
- プラチナ調の数字は光沢がありつつも 鏡面すぎてはいけない
- 角度を変えても黒の深度が変わらない
- 数字埋めの深さが均一であること
126500LN ではベゼルの見え方がよりスリムになり、ダイヤルの存在感が増している。
つまり 少しでも黒が浅いと、すぐに違和感が出る。
クリーンファクトリーの最新版は:
- 黒の深度が安定
- 数字の埋め込みは均一、沈み込みなし
- 角度を変えてもグレーに飛ばない
- プラチナ調の数字はしっかり金属感を保つ
これは、写真では誤魔化せても実物ではごまかせない領域であり、今回の126500LN が「本物っぽく見える」理由の大きな一つだ。
Cal.4131 時代 ― 見えないはずのムーブメントが“着け心地”を変えた
ムーブメントはケースバックで隠れる…
と思われがちだが、4131 の変化は着けた瞬間に伝わる。
純正4131の変更点:
- ローターがボールベアリング式に変更
- ギア効率改善
- ブリッジの仕上げが刷新(縞模様)
- クロノ作動時の振幅安定性UP
- リセットの反応性が向上
クリーンファクトリーの 4131-style クローンは構造そのものは異なるものの、
着けて分かる“感触”の変化を再現することに集中 している。
例えば:
- 巻き上げ音が静か
- リューズの手巻きがザラつかず滑らか
- クロノを押した時の“コツッ”という感触が明確
- リセット時の針の吸い付きが強く、弾かない
- 実測+5~10秒/日程度の安定感
特にクロノ開始/停止のクリック感は、明確に旧4130系とは違う。
腕につけた時の「機械の気持ち良さ」がまさに4131時代の特徴だ。


ケース形状 ― 足し算ではなく“引き算の美学”
116500 からの変更は本当に僅か。
しかし、それが“全体の見え方”を変えている。
- ラグの角がより繊細
- ポリッシュ面とサテン面の切り替えがクリーン
- ベゼルの存在感がスリム化
- ケースが垂直方向にやや整った印象に
パンダの場合、この“ほんのわずかな差”が致命的になる。
なぜなら 白+黒の強コントラストは外周の比率の異常を一瞬で露出させる からだ。
クリーンファクトリーは126500用のケース金型を新造しており:
- ラグ角のエッジが鋭い
- ケースの流線が自然
- プッシャーとリューズ位置がリハウトと正対
- 重量バランスが適正で偏らない
という「腕に乗せた時の収まり」が非常に良い。
ブレスレット & クラスプ ― もっとも誤魔化しの効かないテスト
デイトナの魅力を“静かに支える”のがブレスレットだ。
クリーンファクトリーは以下を高水準で再現:
- 外側のヘアラインは均一
- 中央リンクはクリアで歪みが少ない
- コマの可動が滑らか
- クラスプは“静かで重い”スナップ感
- Oysterlock はガタなし
レプリカはここで差が出る。
だが最新ロットでは、明らかに「剛性感」と「静かな動き」が純正寄りになっている。
パンダが“究極の光学テスト”と言われる理由
- 白は埃が一瞬で見える
- 黒は印刷の乱れが目立つ
- 赤DAYTONAの発色が難しい
- 針やインデックスの“影”が強調される
- 角度を変えると誤差が露呈する
つまり、最も難しい。
だからこそ、パンダが最も評価され、最も批評される。


4131時代がレプリカにもたらしたもの
4131の登場は「視覚の変化」ではなく、
“体験の変化”を求める時代の到来だった。
- 文字盤の気配
- クロノの質感
- ローターの静けさ
- 重心の整い方
- 光の反射の仕方
これらすべてが調和して初めて「良いデイトナ」が成立する。
クリーンファクトリー126500LNはその象徴であり、
“部品の寄せ集め”ではなく“デイトナという体験” を再現している。
これはレプリカ史におけるターニングポイントでもある。

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